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公衆衛生とか疫学って、何なん?

こんにちは。パン屋のぜにこです。

 

ウイルス感染が心配な今日このごろ、パン屋の前は公衆衛生の研究者なんてやっていたぜにこの目線で、

みなさんの疑問や不安にお答えしてみようと思います。

さて今回は、最近良く耳にする、わかったようなわからないような「公衆衛生」とか「疫学」とかいう言葉について。

いちおう専門家のはしくれとして、知っておいていただけるとうれしいな、という気持ちも込めて解説させていただきます。

 

ぜにこは、公衆衛生修士(Master of Public Health:略してMPH)という学位を持っています。

まず、聞いたことがないと思います。

でも実は欧米ではMBA(Master of Business Administration)と並び称される専門職学位です。

いまテレビで出てくる「公衆衛生の専門家」という方々、よーく見るとMPHってついていることが多いです。

ちょっとだけ気にしてみてください😘

 

 

さて、本題の「公衆衛生とは」。

しょっぱなから突き放すようですが

公衆衛生学(public health)とか疫学(epidemiology)と言われる学問分野は、

みなさんが想像できるいわゆる「医学」ではないかもしれない、と思っています💦

 

 

では、医学といえば?

 

白衣を着て試験管を振るような医学実験の風景は、なんとなくテレビや映画などでご覧になりますよね。

日本人がノーベル生理学・医学賞を受賞したら、しばらく嫌でも見ますしね。

ノーベル賞までいかずとも、実験をして新たな発見をする医学的な方法を「基礎医学」と言っています。

ざっくりいえば、細胞サイズより小さいレベルで

病気の原因(メカニズム)を突き止めたり、薬の効果を検証したり、新たな薬の探索をしたり・・・というのが基礎医学。

ちなみにぜにこは、そもそもがんの基礎研究をしていました。

2018年にノーベル賞を受賞した京都大学の本庶先生と同じような分野です。

たくさんの細菌やカビなどから、特定の性質を持つがんに効くものを探索する・・・宝探しのような日々でした。

これはこれで、とてもエキサイティングで、しかも重要な分野です。

 

そして、みなさまにとってもっと身近な医療といえば

病院にいるお医者さんによる診療ですね。

これは「臨床医学」といいます。患者さんを対象とする医学です。

診断、手術手技、ガイドラインに沿った治療選択、などなど・・・

医学部での教育は、大きく臨床医学に時間を割いています。

 

基礎と臨床に加えてもうひとつ、おまけのようにカリキュラムに組み込まれているのが・・・

「公衆衛生学」です。

 

これまたざっくりいうと、公衆衛生学とは

患者さんひとりひとりではなく、社会として集団の健康を維持し、システムとしての医療を成り立たせるための学問です。

細かく分解すると、法医学、医療倫理、医療経済、社会医学、疫学、医療コミュニケーション、などなど・・・

 

あ〜、小難しい。

いままで普通にわかってもらえたことないしなぁ😅

 

たとえばですね。

多少わかりやすくするために、ぜにこがやってたことをいくつか上げてみましょう。

 

◯いままでわかっていなかった「救急車による搬送時間と生存率の関係」を明らかにし、救急搬送の効率化を図る

◯非常にまれな病気の患者さんの全国データベースを作り、医師がいつでも参照できるようにする

◯とある企業の社員食堂でのSuicaを使った購買履歴と体組成データから、社員の健康状態を予測する

 

ちょっとわかりやすくなりましたか?

これらの研究で、取っている手法を「疫学的手法」と言っています。

実地のデータを地道にあつめて、現実を分析し、それを将来に活かすために吟味し、改善し続ける というようなイメージでしょうか。

研究ですが、プロセスとしては企業活動に近いんじゃないかな、なんて思っています。

 

とはいえ「疫」って書くとなんだか疫病っぽいですね。

疫学は、英語にするとepidemiology。

ギリシャ語で語源に分解すると「Epi:降りかかる」「demi:民衆に」「ology:学問」となりますので

「民衆に降りかかるものについての学問」という意味。

古代においては、感染症がまさに降りかかるものだったと考えられます。

 

このパンデミックの時期に問い合わせが多かったのか

日本疫学会が「感染症疫学」についてまとめたページを作ってくれています。

この中の「疫学的手法」のところが、まさに上記のぜにこがやってきたようなことの具体的な進め方です。

いや〜、地味な学問ですわ💦😅

 

どのぐらい地道で地味な仕事かというのは

伝記的な小説から垣間見るとおもしろいです。

 

疫学分野の伝記的ヒーローと言えば

イギリスのジョン・スノウ。

19世紀にロンドンでコレラが流行したとき、世の中で信じられていた悪い空気による病気だという「瘴気説」ではなく

井戸水が発生源だということを地道な調査で突き止め、井戸水を汲み上げるポンプを止めさせたという

疫学の父みたいな人です。

このことを描いた小説「感染地図」は、今読んでもかなりおもしろいと思います。

 

じつは日本にもヒーローがいます。

東京慈恵会医科大学の創始者、高木兼寛先生。

明治時代の軍医であり西洋医学を学んだ高木先生が、当時 陸海軍の「最大の敵」だった脚気から海軍を守る様子を描いた「白い航跡」は、学生時代に読んで痛く感動したことを覚えています。

 

あとは、ネットでも「予言か?」と話題になっている2011年のアメリカ映画「コンテイジョン」。

未知の致死的なウイルスのパンデミックによる、人々のパニックや都市封鎖の描写があまりにも今の現実とクロスするということがクローズアップされていますが・・・

いまはなんだか悪者扱いされているWHOやCDCの研究者たちが、いかにして未知の感染症に挑むかが非常に精緻に描かれています。

 

実はこの連休、コンテイジョンを改めて見直したのですが

本当によくできています。

 

わたしの師匠はいつも

「それはSomething new なのか?そして、それは誰かの役に立つのか?」と言っていました。

 

コンテイジョンに出てくる研究者たちは、

まさに世界の役に立つために、カラダを張ってSomething new と戦っています。

 

DVDを取り出して、テレビで流れている映像は、

DVDの中の世界と同じか、それよりひどいパニックでしたが・・・

いまも世界で戦ってくれているMaster of Public Healthたちが、世界中にいることを思いながら

ちいさなパン屋で毎日、自分ができる範囲のことを、地味〜にやっているぜにこなのでした。