パンのこと、もっと知ってほしい。

パンって身近なだけに、これってなんだろうなんて深く考えないですよね。

パン屋かつ医学研究者であるオーナー職人ぜにこならではの目線で、いろいろなパンの豆知識をご紹介したいと思います。

(こちらの記事は、ほぼ毎月発行している「かくれ家だより」からの抜粋です)

食パンって、なんだろう。

名物だと言っていただいているから、まずはじめは「食パン」から。
食パンって、なんでしょう?

ぜにこは研究職という仕事柄、海外の方と接することが多かったのですが、一番困ったのが「食パン」を英訳できない!ということ。
Google翻訳したらPlain bread。
ただのプレーンなパン?え〜そいういうかんじじゃないよ〜??
ひとかたまりの長い生地をローフというので、Loaf breadでなんとか言いたいことは通じます。でもローフって上が丸い、ミートローフのイメージ。形が違う…。
そんなわけで日本人がみんなイメージできる四角い「食パン」をイメージごと直訳できる英語はないんです。
実はあの食パンの形と食感って日本独特。意外でしょ?

この「食パン」という日本語には由来が諸説あるようですが、パン屋をやってて思うのは、思いの外みなさん「甘いパン」を求めにパン屋にいらっしゃること。
甘いパンの対局にある「食事パン」、しかもヨーロッパのようにずっしりして肉にも合わせられる食事パンじゃなく、日本人が大好きなもちもちふんわりなのが食パンなんだろうな〜って思っています。
よくお店で「ふつうの食パンないの?」って聞かれるんですが、要するに四角い1斤のスライスされた食パンをお求めなのはわかります。 でも「うちにはないです」とお答えしています。
食パンって日本人は「形」の「イメージ」で食べてる気がする。
「あの形」のものは、スライスしてトーストして、バター塗って朝に食べなきゃって思っている気がするんです。
だから、かくれ家名物ちぎり食パンは、もっちり感を楽しむパンとして、あえてスライスしないでおやつでもおつまみでもいけるよ!という提案をしているわけです。

食パンだって、いろいろあっていいじゃない!


【食パンの由来】
「主食用のパン」だからとか、
絵を描くとき使う「消しパン」じゃなく「食べるパン」だからとか、諸説あるらしく、定かではないようです。
ちなみにかくれ家では、黒板に書いたチョークを消すのに固くなってしまったパンを使いますが、めちゃくちゃ良く消えます!

カンパーニュって、なんだろう。

かくれ家のパン棚では食パンに並びどーんと構えているカンパーニュ。
これ硬いんでしょ?大きいから食べ切れない!など見た目のイメージで敬遠している方も多いのでは?
カンパーニュとはフランス語で「田舎パン」というような意味。
もともと田舎で果物や穀物に自然についた酵母を使って焼いたことから、ルヴァン種と呼ばれる自家製天然酵母とライ麦を使うのが特徴のパンです。
かくれ家では、ぜにことぐっさんにパン作りを教えてくれた師匠から受け継いだルヴァンを使っています。
ルヴァンは生き物なので、毎日朝と夕方に2回「たねつぎ」します。
同じ量の生地の中で酵母があまり増えすぎると満員電車状態になって元気がなくなっちゃうので、粉を足して空気を含ませて酵母をリフレッシュさせてあげるんです。
たねつぎの時は絶対に他の生地が混じらないように念入りに洗浄したきれいなボウルと器具を使い、大事に大事に扱っています。
ルヴァンはちょっと酸っぱい香りがしますが、これが元気に育った証拠。今日も元気だね!って語りかけながら、我が子のように育てています。
ルヴァンとライ麦を使うカンパーニュ、酸味がニガテだという方もいらっしゃいますが、薄く切ってちょっとトーストしたら食べやすくなります。
他のパンと比べると焼き時間が長いので、切るときはちょっと硬いですが、内側はしっかり詰まったふんわり生地。
パン自体の香りがしっかりあるので、生ハムや香り高いチーズ、焼いたチキンなんかとも相性もバッチリ。
サンドイッチにしても美味しいんです。
また、穴の多いバゲットよりも身がしっかりしているのでスープやシチューにつけてもぐちゃぐちゃになりません。
なんとなく洋食にはバゲット、と思っている方。ぜひ次はカンパーニュを合わせてみてください。
うちの子、けっこうできる子です笑

フランスパンって、なんだろう。

お気づきでしょうか、かくれ家には「フランスパン」という名前のパンはありません。
そもそも「フランスパン」って何?
おそらく多くの方は「長細い硬いパン=フランスパン」というイメージではと想像します。でも、実はフランスパンというのは「総称」で、1つのパンを指しているのではありません。フランス・パリを発祥とする表面が固く、小麦粉・塩・水・酵母だけで作った生地を使うパンを総じて「フランスパン」と呼んでいるんですね。じゃあ本国フランスではなんと言うかというとpain traditionnel(パン・トラディショネル)。
かくれ家のいわゆるバゲットも「トラディショネル」という名称ですが、この生地の名前から取っています。伝統的な、という意味です。
上記のとおり、トラディショネルは糖類やバター・卵を使わないとてもシンプルな生地なので、職人の技術が味を左右する非常に難しいパンです。そもそも、ぜにこが製パンを本格的に学び始めたきっかけも、どうしてもおうちできれいなバゲットが焼けない!というところがスタートでした。バゲット独特の表面模様「クープ」が開かなかったり、大きな気泡がうまく入らなくて、ふわふわした仕上がりになってしまったり。
スーパーなどではふわふわのバゲットが売られていたりしますが、あれは固いパンに馴染みのない日本人むけに卵や牛乳を入れて柔らかく仕上げたもので、ソフトバゲットと呼ばれたりします。職人としては、バリッとしたバゲットをかっこよく焼きたい。てなわけで生地を混ぜるところから、分割、成形、窯入れ、焼成、すべての段階でもっとも気を使うのがこのバゲット。
ちなみにうちの「トラディショネル」は何故「バゲット」という名前じゃないかと言うと、フランスでは生地の重量・長さに決まりがあるんです。「バゲット(杖・棒という意味)」は300〜400gの生地で70〜80cmに成形したものを指します。ほんとに杖みたい。一方うちの「トラディショネル」は250gの生地を40cmぐらいに仕上げていますので、だいぶ小ぶり。日本人の生活でそんな巨大なバゲットは食べ切れないでしょうということで、小さめに仕上げています。そういえば、ぜにことぐっさんの師匠は「バゲットの賞味期限は3時間!」とよく言っていました。
表面がぱりっと、中身がふわっとしていい香りがただようベストの状態は、3時間ぐらい。食パンは焼いて30分たてばその後は2日経ってもあまり変わりませんが、バゲットはやっぱり焼き立てが絶品!

フランスパンって、なんだろう。その2

今回は、前回に続き「フランスパン」。
前回はフランスパンの代表格「バゲット」について考えてみましたが、今回はおなじフランス生地を使用して作っているいろいろなパンたちをご紹介します。

◯ベーコンエピ
まずはこちら。よく「えびぱん」と呼ばれてしまうのですが、海老ではありません。 「エピ epi」です。言われてみれば海老に見えなくもない…ですが、epiとはフランス語で「麦の穂」のこと。パンの材料である小麦をかたどったパンなのです。どうか海老とまちがえないであげてください。笑

◯クランベリー&クリームチーズ
さてお次は、かくれ家のパン売上個数ランキングTOP3に入る「クランベリー&クリームチーズ」。フランス生地で甘酸っぱいクランベリーとさっぱりクリームチーズを包み込んだ逸品。この組み合わせは、ぜにこがパン屋になる前からずっと作り続けてきたお気に入り。生地が伸びる限界までぎっしり詰まったクランベリーは、どこへ行っても人気者です。

◯フランスあんぱん
実は根強い人気を誇る「フランスあんぱん」。通常、パン屋さんのあんぱんは菓子パン生地と呼んでいる甘くてふわふわした生地を使うのですが、かくれ家ではフランス生地で北海道・えりも産のあんこを包んでいます。フランスパンを日本に広めた貢献者であり、ぜにこが尊敬するパン職人フィリップ・ビゴさんのお店で初めて食べたフランスあんぱんが忘れられず自分でも再現してみました。後味さっぱり、甘すぎないお味が好評です。

◯リュスティック
最後にご紹介するのは「リュスティック」。発音しにくい名前ですが、フランス語でRustique とは「素朴な」というような意味。フランス生地の水分量を多くしたパンで、生地の状態では手でつかめないほどやわらかいため切ってそのまま焼くのが一般的。やわらかな食感と切りっぱなしの不定形が特徴です。日によって形が違う?と思っていた方、大正解です!
かくれ家ではプレーンと五色豆の2種類をお出ししています。プレーンは、バゲットのようにスライスして召し上がるのももちろんおいしいですが、横に半分に切ってサンドイッチにするとおしゃれカフェ風に☆ 一度お試しあれ。