こんにちは。パン屋のぜにこです。
パン屋の前は公衆衛生の研究者なんてやっていたぜにこの目線で、 みなさんの疑問や不安にお答えしてみようと思います。
Stay home 解除から1ヶ月。東京では、じわじわ感染者が増えてきている様子です。
そんなわけで本日は・・・ 「第二波」について。
いま世の中で「第二波」と言っていますが
これは「もう一回ピークが来て、またStay homeになっちゃう」という意味かと思います。
わたしの中では「第二の緊急事態」と名付けています。
というのも、「波」についてちょっとおもしろいデータを見つけたのです。
国立感染症研究所の患者由来ウイルスゲノムの解析結果によると
実は国内での感染拡大には、すでに2つの波があった、とのこと。
下の図は、感染研の報告書からの引用です。
見慣れない図だと思いますが、ネットワークアナリシスというものです。
点のひとつひとつが患者さん、直接つながっている線はウイルス遺伝子が似ている(だからおそらく感染経路がつながっている)ことを示していると思ってください。
赤い点が、日本人の患者さんです。
図の右下の方に、赤い点が集合しているところがいくつか見られます。
これは、今年1月初旬から日本各地に散発的に発生した、オリジナルの武漢由来に近いウイルスを持った患者さんです。
小さいクラスター(カタマリ)を作っていますが、その先に伸びていないということは、
ここで感染は拡大しないで収束しています。
かなり話題になった「ダイヤモンドプリンセス号」はピンクの点ですが
武漢ウイルスから派生して、船内で感染拡大したものの、それ以上には広がっていないことが見て取れます。
一方で、武漢のウイルスからどんどん離れていっていますが
EU、USAで大ブレイクしたウイルス株が再度日本にやってきたのが「第二波」で、図の左上にある赤い点のあつまりです。
振り返って考えてみると、3月はそこまで行動制限がなかったのですが
このEU由来の 「第二波」がひっそり来ていたわけです。
4月からの緊急事態宣言によって、「第一波」であった武漢由来ウイルスは抑え込めたけれど
「第二波」のEU由来ウイルスが、今まで続く感染源になっているということです。
このデータは4月半ば時点での解析なので、現状がどうなっているかはわからないのですが
おそらく、左上の赤い点が増えていっている・・・ということだと考えられます。
もうひとつ、わかりやすいデータを見つけました。
日経新聞電子版に載っていた「入れ替わるランキング 新型コロナの国別感染者を見る」です。
ぜひリンクを見てください。
(画像をクリックすると、日経のサイトに飛びます)
1月初め、ほぼ中国だけにとどまっていた患者さんが
1月〜2月にかけてにアジアに伝播し、
2月末頃から突然イタリアで感染が拡大。
そこからEU内での感染が広がり、これが3月初めにアメリカに渡ります。
欧米での感染はここからものすごいスピードで伸びて、3月末にはアメリカの患者数が中国を抜きます。
ここからはEU・アメリカの感染拡大が止まらず、4月末にはTOP10から中国が抜けて、EU・アメリカだけに。
同時に、このころからブラジルとロシアでの感染が広がり始めます。
5月末にはブラジルでの感染者数がEU各国を抜いて2位に、ロシアが3位になり、
ついでじわじわとインド、ペルー、チリなどで広がりを見せているのが現状。
4月までの状況は、上のネットワークアナリシスと合わせてみると、非常にわかりやすくなります。
アジア内およびアメリカ西海岸での感染が抑えられつつある一方で、
EUとアメリカ東海岸で感染が拡大していった・・・ということですね。
同じアメリカでも、西海岸は太平洋に面しているためアジア由来、東海岸は大西洋に面しているためEU由来、というのが興味深いです。
現在のネットワーク図を書き加えると、おそらく北米からブラジルに渡る大きなカタマリができているはず。
陸続きなので、仕方ないのかもしれませんが、そこからペルー、チリへと広がっているのだと考えられます。
ロシアやインドも、おそらくEU由来のはずです。
考えてみれば、BRICsと言われる国がほぼ入ってきていますね。
経済活動が活発で人口が多いので、やはり感染が広がるのも速いのではないでしょうか。
さて、ここまでが現状分析。
で・・・日本に「第二の緊急事態」は来るのか?
どう思いますか?
いま国内にある、EU由来の「第二波」ウイルスは、うまく行けば抑えられるかもしれないし、
東京の現状を見ると、このまま拡大するかもしれません。
そして、中国から端を発したウイルスは
地球をグルっと回って、また中国に近づいてきている気がしませんか?
インドもロシアも、中国と接しています。
そうすると、「第三波」つまり「第二の緊急事態」が日本やってくることも、そしてそれがまたグルっと回って・・・ということも、考えられなくはないです。
ハーバード大学の公衆衛生学教授 Marc Lipsitch先生によると
「秋に注意すべし」のだそうです。
夏は、やや感染の速度が収まる(といっても2割ぐらいで、感染を止めるほどではない)とのことで
また寒くなってくる11月に向けて、夏が終わることからの対策がもっとも重要と。
そして、完全なる「収束」には何年もかかる・・・ということです。
これは専門家の間で、3月ごろから言われていたことなのですが・・・
おそらく、都市封鎖→解除 を何度も繰り返して、数年をかけて収束するのでは、という予想です。
え〜そんなに!
と思われるかもしれないですが、そんなにかかります。きっと。
だから「新しい日常」は「これからのあたりまえ」になると思いますし
もとに戻る、ということを考えるのではなく、今の状況からどうする、という考え方が必要になりそうです。
「第二の都市封鎖」が来るという前提で。
【参考リンク】
国立感染症研究所 令和2年4月27日 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 のゲノム分子疫学調査 (2020/4/16 現在)
日本経済新聞電子版 入れ替わるランキング 新型コロナの国別感染者を見る
AMA Public Health: May 8, 2020; Harvard epidemiologist: Beware COVID-19’s second wave this fall
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ながいツマ (火曜日, 30 6月 2020 13:16)
専門家の王様らしいコラムで、とても興味深く読ませて頂きました。
コロナウィルスが撲滅した訳でも、治療法が出来た訳でもないのですから、新しい生活様式が、これからの当たり前になるというのも納得ですね。
コロナは色々な常識や当たり前をぶち壊したなぁ、と感じます。