こんにちは。パン屋のぜにこです。
パン屋の前は公衆衛生の研究者なんてやっていたぜにこの目線で、 みなさんの疑問や不安にお答えしてみようと思い、このコラムを継続しています。
さて、Stay home 解除から2ヶ月半が経過しました。
この間、自粛期間中と比べてあまりみなさまに情報を発信してこなかったのですが…
これには理由があります。
わたしが、確信をもってみなさまにお伝えできるデータがあまり出てこなかったんです。
統計的な数字というのは、たとえば「今日の新規感染者数」だけをとってもあまり意味がなくて
全部で何人が検査したのか?
検査のキャパシティは?
陽性者のうちの重症割合は?ハイリスク者の割合は?
など、こまかく数字を見ていかないと、間違った解釈を生んでしまう。
疫学的な解釈のための基本姿勢は「critical appraisal (批判的吟味)」だと、われわれは叩き込まれています。
批判的というのは、いわゆる批判するという意味ではなく
本当に正しいのか?を疑う視線を持って、あらゆる角度からデータを吟味するということです。
ふだんはテキトーな人間ですが笑
数字の解釈にはいつも慎重です。
そんな私が、ようやく納得の行くデータに出会いましたので
最近の東京都の感染状況、そして「特別な夏」をどう過ごすのか、考えていきたいと思います。
感染者は「増えている」のか?
引用:東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト都内の最新感染動向 最終更新 2020年8月10日 20:00
毎日、各種報道で耳にする「今日の感染者数」。
上のグラフは、1日の新規感染者数の推移をみたものです。
確かに、7月から8月にかけて、新たに感染が確認された方は増加してきています。
でも、よく見るとグラフは単純な右上がりではなく、周期的にでこぼこしていますね。
数えてみるとだいたい7日周期で「凹み」があることがわかります。
7日ってことは1週間?
ここで、東京都のサイトから生データ(患者さんの年代・性別・感染確認日などの一覧)を入手したので、
曜日ごとの「新規感染確認者数」を見てみました。
これは、東京都でデータ収集が開始された今年1月24日から8月10日までの累計です。
データソース:東京都 新型コロナウイルス陽性患者発表詳細
月曜日は特に感染確認者数が少ないことがわかりますね。
けっしてコロナさんが月曜お休みなわけではなく、
日曜日は医療機関が休みなので、持ち込まれる検体数が月曜日に少なくなるとのこと。
要するに、月曜は「感染確認者数」が少ないのではなく、「検査総数」が少ないわけですね。
ここのところ感染確認者数が増加傾向で300人オーバーが続いていた中、200人を切った昨日(8月10日(月))は
都の発表で「月曜にしては少ないわけじゃない」という一言がありましたが
そういう意味なんですよね。
てことは、検査した総数と、その中で「どのくらいの割合が陽性だったのか(陽性率)」のほうが
1日の「新規感染確認者数」よりも、正確に感染者の増減を示しているように思いませんか?
そんなわけで、陽性率を見てみましょう。
引用:東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト都内の最新感染動向 最終更新 2020年8月8日 20:30
この棒グラフの縦の長さが1日の検査総数です。
棒グラフが4つに色分けされていて、下の方の濃い色の部分が検査で陽性だった人の数です。
オレンジの実線は、検査陽性率(検査を受けた総数のうち陽性だった人の割合)で、右の軸の%が対応しています。
7月初旬から見てみると、検査数自体が2倍以上になっていますね。
もし検査陽性率が変わらなければ、検査数が2倍になると当然「感染確認者数」も2倍になります。
毎日の報道で「今日の感染者数は◯◯人」と言われると
見た感じ、患者さんが増えているように思いますが…
コロナウイルスの威力が高まったわけではなく
検査をすればするほど患者さんが見つかっている(いままで検査していなかったけど見つかった)ということです。
そうは言っても、徐々にオレンジの線は右上に向かって上がってきています。
陽性率が上がってきている、ということです。
つまり、検査数も増えてるけど、陽性だと分かる人の割合も増えてきている。
次に気になるのは、陽性だとわかった人はどんな人達なのか?
この人たちは、治っていく状況なのか?重症なのか?ということです。
引用:東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト都内の最新感染動向 最終更新 2020年8月10日 20:00
ずいぶんグラフの形が変わりました。
ずっと右上がりのグラフばっかりでしたが、この「重傷者数」のグラフは平らですね。
「新規感染確認者」や「検査総数」は増加していますが
重傷者の数はそこまで増えていなようです。
さて、じゃあ3月とか4月とか、あの大変だった時期…重傷者が多いという報道がありましたが
どのぐらいの数だったんでしょうか?
ここで、いろいろな指標を「緊急事態宣言下での最大値」と比較した表を見つけたので、検証してみましょう。
まず、いま見てきた重傷者数については、一番下にあります。
現状は20人程度、点線で囲まれた参考値の「緊急事態宣言下での最大値」は4月28日時点で105人。
これって多いの少ないの?
この表を読み解くために、すこし計算をしてみます。
4月頃の検査陽性率は最大3割ぐらい、1日の新規陽性者数は最大160人ぐらいですから
検査総数は1日あたり500件弱だったことが想定されます。
8月の検査総数は、多い日で5000件を超えていますから(このページ2つ目の棒グラフ モニタリング項目4参照)、
検査のキャパシティは4月と比べて10倍以上になっているということですね。
そして、4月ごろは1日500人検査して、100人が重症。
8月は1日5000人検査して、20人重症。
重傷者の割合が減っているというよりは、
4月ごろは検査できるキャパが少なかったので
そもそも、比較的症状の重い方を優先して確定診断をしていたんだろう、ということが想像されます。
たぶん、現在の「重傷者数」の数字は安定しているので、実際の重症率に近いのだと思います。
さて、表の右にある「個別のコメントは別紙参照」が気になります。
具体的にコメントをちょっと見てみましょう。
詳細が書かれていますので抜粋してみると・・・
- 新規感染者数
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- 7月28日から8月3日までの報告では、10歳未満1.1%、10代2.7%、20代43.2%、30代24.0%、40代12.6%、50代8.0%、60代4.3%、70代2.3%、 80代1.3%、90代0.5%であり、全年齢層に感染が拡大しつつある。
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- 40歳以上の陽性者数が575人から685人に増加しており、今後注意する必要がある。
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- 7月28日から8月3日までの感染経路は、全世代合計で、同居する人からの感染が26.0%と最も多く、次いで接待を伴う飲食店等19.3%、職場 17.9%、会食13.8%の順である。
- 感染経路が多岐にわたっているのは、無症状や症状の乏しい感染者の行動に影響を受けている可能性がある。
- 入院患者数
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- 第一波(3月1日から5月25日の緊急事態宣言解除までと設定)と異なり、1日当たりの新規陽性患者数の漸増が長期間継続して収束の兆しが見えない中、医療従事者の緊張は続いている。
- 7月26日から8月1日の新規入院患者数が688人、退院者数が364人となっており、先週に比べ、重症化リスクのある中高年者や、中等症の入院患者が増加しつつある。
- 7月29日から8月4日までの陽性者2,411人のうち、無症状の陽性者が13.5%を占めている。宿泊療養施設を増やしているが、運営にあたる医師等は、通常の医療現場から人員 を確保しているため、充足に苦労している。
- 重症患者数
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- 第一波では、ピーク時に医療機関は、予定手術や救急の受け入れを大幅に制限せざるを得なかった。特に重症患者数 の増加は、新型コロナウイルス感染症患者のための医療だけでなく、それ以外の疾患の重症患者に必要な集中治療の提供体制を圧迫することとなる。
- 第一波では、新規陽性者数の増加から約14日遅れて重症患者数が増加したので、引き続き警戒が必要である。
そもそも緊急事態宣言ってなんだったっけ?
ということを考えてみたときに、最も重要なことは「医療体制の維持」だったはずです。
これ以上 コロナ患者さんが殺到したら、通常の医療も提供できなくなる…お医者さん足りない…コロナじゃなくても重症の方はどうするの?
というのが緊急事態なわけです。
現状は、そこまで患者さんが激増しているわけではないけれど
じわじわ増え続け、先が見えない不安。
7月中は若年層中心だった感染者が、やや高齢者シフトし始めている傾向。
そして家族内での感染。
無症状の比較的若い方から、重症化リスクが高めの高齢の方へ、
しかも家庭内や職場内など身近な方へ、広まっている現状が見受けられます。
さあ、どう過ごそうか。
ここまでは、数字と医療機関の話です。
じゃあわたしたちは、どうやって日々を過ごしたらいいんでしょう。
もちろん正解はわかりません。
ただ、気をつける以外にないことも、変わりないでしょう。
最近「それでコロナって大したことないんだよね?」と聞かれることがしばしばいあります。
だいたい若い方です。
「あなたにとって大したことなくても、お家にいるご両親やおじいちゃんおばあちゃんにコロナを運ぶことになるかもね」
という回答をせざるを得ません。
錦糸町の周りでも、わたしの出勤時間あたり(深夜〜早朝)に、お外で溜まって飲みながらしゃべっている若い人たちを見かけます。
こういう元気な人たちが、広げちゃうのかなぁ・・・と思いながら通り過ぎます。
若い方には、これまでより一層 気をつけて行動していただきたいし
比較的リスクの高い年代の方には、マスクをせずに話をする関係性の方(ご家族・ご友人など)にも注意を促していただくほうがいいのかも、などと思います。
どうぞみなさま、自分だけでなく、自分が媒介して知らない方に広げてしまわないように
そんな感染者の増加で医療が逼迫して、またStay homeになる前に
みんなが気をつける、ということを再度徹底していただきたいと願います。
マスクをせずにパン屋に来店される方がちらほら見られ
けっこう危機感を覚えているぜにこでした。